
なぜ組織は疲弊するのか
前回の導入で、渡り鳥のV字編隊について書きました。今回はその前提となる問い、「そもそもなぜ組織は疲弊するのか」をもう少し掘り下げてみます。
これは私自身にとって、けっこう痛みを伴うテーマです。
ハムスターホイールの中にいた頃
エンジニアとしてチームを率いていた時期、私は短期成果にかなりコミットしていました。
四半期ごとの目標があり、それを達成すると次の目標が降ってくる。達成すればするほど、次の期待値は上がる。走れば走るほどホイールが速く回る。いわゆる「ハムスターホイール」の状態です。
当時はそれが普通だと思っていました。成果を出すことが求められている。だから出す。出したら次。それの何がおかしいのか、と。
でも振り返ると、あの頃の自分には明らかに欠けているものがありました。
「なんのためにやっているのか」が、どこにもなかった。
数字は上がっている。チームも回っている。でもどこか空虚で、達成した瞬間の充足感がどんどん薄くなっていく。休むことに罪悪感がある。止まると「遅れている」ような気がして、常に何かに追われている感覚が消えない。
これが「意味の枯渇」だったんだと、今になって思います。
疲弊の正体は、体力ではなく意味
組織の疲弊について語られるとき、よく出てくるのは「業務量が多すぎる」「人が足りない」「残業が多い」という話です。もちろんそれも事実だと思います。
でも私が実感として持っているのは、もう少し別の感覚です。
業務量が多くても、「これをやる意味がわかっている」状態なら、人はけっこう踏ん張れる。逆に、業務量が適正でも、「なんのためにこれをやっているのかわからない」状態だと、じわじわと消耗していく。
短期成果だけに向き合い続けると、この「意味の文脈」が抜け落ちやすいんです。
目の前の数字を追いかけることに集中すると、プロセスそのものに意味を見出しにくくなる。「達成か、未達か」の二択になってしまい、その間にある試行錯誤や学びが見えなくなる。
私が「電池切れ」になったときも、振り返ればこの構造の中にいました。体力が尽きたというよりも、意味のほうが先に尽きていた。
「全員が常に全力で走る」という暗黙の前提
もうひとつ、組織の疲弊について考えるときに見落とされがちなことがあります。
それは、多くの組織が「全員が常に全力で走る」ことを暗黙の前提にしているということです。
考えてみれば、これはかなり異常な設計です。
マラソンランナーでさえペース配分をする。サッカー選手にもベンチがある。でも組織では、なぜか全員が同時に同じ強度で走り続けることが期待されている。「今月はペースを落とします」と言える空気は、ほとんどの職場にないんじゃないでしょうか。
私自身、チームリーダーとして「自分が率先して走らないと」と思っていた時期があります。先頭を走ることがリーダーの役割だと信じていた。
でもそれは、渡り鳥のフォーメーションとは真逆の発想でした。
渡り鳥の群れでは、先頭にいることにはコストがあるという前提が共有されている。だから交代する仕組みが最初から組み込まれている。「全員が常に全力で飛ぶ」なんて設計にはなっていない。
私たちの組織に足りないのは、「頑張り」ではなく「交代の設計」なのかもしれません。
既存のマネジメント論はどこを見てきたか
ここで少しだけ、既存のマネジメント理論についても触れておきたいと思います。
従来のマネジメント論は、組織の疲弊に対してどうアプローチしてきたか。大きく言えば、「モチベーション管理」と「報酬設計」の2つが中心だったと思います。
疲弊している? → モチベーションを上げよう。
離職が増えている? → 報酬を見直そう。
もちろん、それが的外れだとは思いません。ただ、どちらも「走り続ける前提」は変えずに、走り方を調整するというアプローチなんですよね。
ホイールの回転速度を調整しているだけで、ホイールそのものの構造には手をつけていない。
私がずっと引っかかっていたのは、ここでした。
問題は「どう走るか」ではなく、「どういうフォーメーションで走るか」なんじゃないか。前に出る人と、後ろで力を蓄える人が、意図的に交代できる仕組みがあれば、個人の消耗と組織の前進を両立できるんじゃないか。
まだ仮説の段階ですが、この問いが私の中でずっと温まっています。
短期成果と中長期成長は、トレードオフなのか
最後に、ひとつ問いを置いておきます。
「短期的な成果」と「中長期的な成長」は、本当にトレードオフなのでしょうか。
私はこの2つを対立するものとして捉えること自体が、もしかしたら罠なのかもしれないと思い始めています。渡り鳥のV字編隊は、群れの前進(短期の成果)と個体の回復(中長期の持続)を、トレードオフではなく同時に成立させる設計として実現している。
つまりこれは「どちらを優先するか」の問題ではなく、「どう設計するか」の問題なのかもしれない。
次回は、渡り鳥と犬ぞりのフォーメーションをもう少し詳しく見ながら、この「設計」の中身を具体的に考えてみたいと思います。
前回の記事はこちら:

渡り鳥はなぜ飛び続けられるのか
次回の記事はこちら:

渡り鳥と犬ぞりに学ぶフォーメーションの設計
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