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    渡り鳥と犬ぞりに学ぶフォーメーションの設計

    渡り鳥と犬ぞりに学ぶフォーメーションの設計

    タカシ ユウト/ TIELEC代表
    7 分で読める

    前回、「なぜ組織は疲弊するのか」を掘り下げてみて、ひとつ見えてきたことがあります。

    問題は「どう走るか」ではなく、「どういうフォーメーションで走るか」なんじゃないか、ということ。

    今回は、渡り鳥と犬ぞりという2つの自然界のフォーメーションを改めて丁寧に見ながら、そこにある設計原理を取り出してみたいと思います。


    渡り鳥のV字編隊を、もう少し丁寧に見る

    導入回で渡り鳥のV字編隊について触れましたが、改めて整理すると、このフォーメーションには3つの設計原理が組み込まれています。

    1つめは、コストの偏在。

    先頭の鳥は風の抵抗をまともに受けます。後続の鳥は先頭が作る気流に乗ることで、約23%少ないエネルギーで飛べる。つまり、ポジションによってコストが明確に違う。そしてそれが群れ全体で共有されている。

    私たちの組織では、この「ポジションによるコストの違い」が見えにくくなっていることが多い気がします。マネージャーが何を背負っているのか、チームメンバーには結果しか見えていない。消耗のプロセスが不可視なんです。

    2つめは、自然な交代。

    先頭の鳥が疲れると、静かに後ろへ下がる。次の鳥が前に出る。ここで重要なのは、交代に「判断会議」も「評価面談」も必要ないということです。エネルギーの状態がそのままトリガーになって、自然に入れ替わる。

    人間の組織でこれが起きにくいのは、交代を阻むものが多すぎるからだと思います。権力、プライド、「降格」という意味づけ。渡り鳥にはそれがない。後ろに下がることに、何のネガティブな意味もついていない。

    3つめは、後ろにいることの意味。

    これが一番大事かもしれません。

    後続の鳥は、休んでいるわけではない。前にいる鳥の気流を受けて、次に前に出るためのエネルギーを蓄えている。つまり後ろにいることは「待機」ではなく「準備」です。

    この区別は、組織設計においてものすごく重要だと感じています。「前にいること」と「後ろにいること」に優劣がないのは、後ろにいる状態にも明確な役割と意味があるからです。


    犬ぞりのフォーメーション

    犬ぞりにも、似た構造があります。

    先頭を走るリードドッグは、方向を判断し、雪面の状態を最初に読み取る。最も大きな判断負荷とエネルギーコストを負う役割です。そしてこのリードドッグも、ずっと先頭にいるわけではない。疲労の兆候が見えたら後ろに回り、別の犬が前に出る。

    ここで面白いのは、マッシャー(操縦者)の存在です。

    マッシャーの仕事は「速く走らせること」ではなく、「交代のタイミングを見極めること」だと言われています。どの犬が消耗しているか。どの犬が次に前に出る準備ができているか。それを察知して、フォーメーションを組み替える。

    これは、組織におけるマネジメントの役割を考え直すヒントになると思っています。

    マネージャーの仕事は「自分が先頭を走ること」でもなければ、「チームを速く走らせること」でもなく、「誰がいつ前に出て、いつ後ろに回るかを見極めること」なのかもしれない。


    2つのフォーメーションに共通する設計原理

    渡り鳥と犬ぞり。見た目は違いますが、共通している設計原理を取り出してみると、こうなります。

    1. コストの可視化

    先頭にいることにはコストがある。そしてそのコストが、群れ全体に見えている。

    2. 交代の仕組み化

    交代は「失敗」や「降格」ではなく、あらかじめ組み込まれた設計。

    3. 後方ポジションの意味づけ

    後ろにいることは「怠け」ではなく、「次に前に出るための準備」。

    4. 全体最適の視点

    個体の消耗を管理することが、結果として群れ全体の前進速度を最大化する。

    書き出してみると、どれも当たり前のことに見えます。でも、この4つがすべて揃っている組織を、私はあまり見たことがありません。


    既存の理論はどこまでカバーしているか

    実はこの話に近い理論は、部分的にはすでに存在しています。

    シェアド・リーダーシップ(Shared Leadership)という考え方は、リーダーシップを一人に固定せず、場面に応じて担い手が入れ替わるという発想です。犬ぞりの先頭犬が交代する感覚に近い。

    エネルギー・マネジメント論(Loehr & Schwartz)は、「時間管理よりエネルギー管理」という考え方で、消耗と回復のサイクルを意図的に設計する。渡り鳥のV字編隊は、まさにこれの集合体版とも言えます。

    そしてリジェネラティブ・リーダーシップ(Hutchins & Storm)は、「組織もあらゆる生命システムと同様に、拡張と収縮、創造的なスプリントと回復の深みを持つ」という思想で、自然のリズムを組織に取り入れる発想。

    ただ、正直に言うと、どれも「思想」としては語られているけれど、具体的な制度設計レベルに落ちているかと言われると、まだ足りないという感覚があります。

    「交代すべきだ」とは言っている。でも、「どういう名前の役割に移行するのか」「報酬はどうなるのか」「交代のトリガーは何か」という実務レベルの問いには、まだ答えが出ていない。


    この連載で考えたいこと

    だからこそ、この連載ではもう一歩踏み込んでみたいと思っています。

    渡り鳥と犬ぞりから取り出した設計原理を、人間の組織に適用するには何が必要か。具体的には、「前にいた人が後ろに移行するとき、その人にどんな名前と役割を与えるのか」「報酬はどう設計するのか」という問いに向き合ってみたい。

    次回はそのひとつの仮説として、「シニアサポーター」という役割について書いてみます。

    正直、まだ荒削りな考えです。でも、荒削りなまま出してみることに、意味があるんじゃないかと思っています。


    前回の記事はこちら:

    なぜ組織は疲弊するのか

    なぜ組織は疲弊するのか

    Journal
    組織・チーム

    次回の記事はこちら:

    シニアサポーターという役割設計 ―「降格」を「移行」に変える

    シニアサポーターという役割設計 ―「降格」を「移行」に変える

    Journal
    組織・チーム

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