
渡り鳥はなぜ飛び続けられるのか
最初に正直に言うと、この連載は「答え」を持って書き始めているわけではありません。
組織について、ここ数年ずっと引っかかっていることがあって、それを対話の中で言語化していたら、思いのほか輪郭が見えてきた。でもまだ仮説の段階です。だから、一緒に考えてもらえたらうれしいなと思って、連載という形で少しずつ書いてみることにしました。
毎年秋になると、渡り鳥たちが何千キロもの旅に出ます。
その飛行フォーメーションをよく見ると、鳥たちは常にV字を描いている。先頭の鳥が風の抵抗を全身で受けて、後続の鳥たちはその気流に乗ってエネルギーを温存する。研究によれば、後続の鳥は先頭と比べて約23%少ないエネルギーで飛べるそうです。
そして先頭の鳥が疲れると、静かに後ろへ下がる。次の鳥が前に出る。
これを繰り返しながら、群れ全体は止まることなく飛び続ける。
個体は交代しながら消耗を分かち合い、集団としては前に進み続ける。これは奇跡じゃなくて、設計です。
翻って、私たちの組織はどうでしょうか。
一番頑張っている人が、一番消耗していませんか。
優秀なマネージャーが燃え尽きて、優秀なリーダーが去っていく。そのたびに「あの人は特別だった」と語られ、また次の誰かに同じ重荷が渡される。
私自身、エンジニアとしてチームを率いていたとき、この構造にハマったことがあります。短期の成果を出すことに全力でコミットして、それ自体は達成できていたけれど、気づいたら「電池切れ」の状態になっていた。達成しても充足感が薄い。休むことに罪悪感がある。「もっとやらなきゃ」が止まらない。
あのとき感じていた消耗の正体は、体力の問題というよりも、意味の枯渇だったんじゃないかと、今は思っています。
短期的な成果だけに向き合い続けると、「なんのためにやっているか」が見えなくなる。数字は上がっているのに、どこか空虚。そういう感覚に覚えのある方も、もしかしたらいるかもしれません。
渡り鳥はそんな飛び方をしません。
彼らのフォーメーションには、短期的な成果(集団の前進)と中長期的な持続(個体のエネルギー回復)の両方が、最初から設計として組み込まれている。
先頭に立つことにはコストがある。だから交代する。後ろにいることは怠けではなく、次に前に出るための準備期間。
このシンプルな原理が、なぜ私たちの組織には適用されていないんだろう?
犬ぞりもそうです。
先頭を走る犬は最も大きなエネルギーを使い、方向を判断する責任を負う。でもずっと先頭にいるわけではなくて、疲れたら後ろに回り、別の犬が前に出る。マッシャー(操縦者)はその交代のタイミングを見極めることが最も重要な役割のひとつだと言われています。
渡り鳥も犬ぞりも、「誰が前にいるか」よりも「どう交代するか」に設計の重心がある。
私はこの考え方に、組織を再設計するための大きなヒントがあると感じています。
この連載では、こんなことを考えていきたいと思います。
なぜ組織は疲弊するのか。渡り鳥と犬ぞりのフォーメーションから何が学べるのか。「前にいる人」と「後ろにいる人」の両方に、名前と役割と報酬を与える制度設計はどうすればできるのか。そしてそのためには、リーダー自身の内面にどんな変化が必要なのか。
正直なところ、まだ全部の答えが見えているわけではありません。連載を書きながら考えが深まっていく部分もあると思います。
ただ、ひとつだけ確信していることがあります。
「全員が常に全力で走る」という設計は、もう限界に来ている。
渡り鳥は、それを何千年も前から知っていたのかもしれません。
次回は「なぜ組織は疲弊するのか」について、もう少し構造的に掘り下げてみます。
次回の記事はこちら:

なぜ組織は疲弊するのか
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