うまくまとまるかわからないのですが、最近ずっと感じていたことを書いてみます。
Amazonの本棚に感じた違和感
AIを日常的に使うようになって、もう結構経ちます。仕事でもプライベートでも、なくてはならない存在になりつつある。それ自体はいいことだと思っています。
ただ、ふとAmazonで本を探しているときに、なんとも言えない違和感を覚えることがあるんです。「○○で即戦力」「誰でもできる○○術」みたいなタイトルが、ずらっと並んでいる。このブームに乗っかって一冊出しておこう、という空気が透けて見えるような。
もちろん、中には良い本もあると思います。仕事に役立つプロンプトの書き方を丁寧に解説しているものとか。ただ、自分の中のどこかが「なんか違う」と引っかかっていて、その正体がしばらくわかりませんでした。
「考えなくていい」というメッセージ
しばらく考えて気づいたのは、自分が引っかかっていたのは本の質そのものではなく、その本が暗に発しているメッセージのほうだったということです。
「このプロンプトを使えばOK」「この手順通りにやれば誰でもできます」。そう書かれていると、一見とても親切に感じます。でもそれって、裏を返すと「自分で考えなくていい」ということでもある。
AIを使いこなすために本当に必要なのは、「AIにこう聞けばいい」というテンプレートではなくて、「なぜそう聞くのか」「その答えをどう疑うのか」という、もっと手前にある思考の力だと思うんです。
深く考える素養があるかないかで、AIを使う側に立てるのか、AIに使われる側になってしまうのかが変わる。自分が感じていた違和感の正体は、思考を省略する方向へ人を導いてしまう本が、結果的に「AIに使われる側」の人を増やしてしまうのではないか、という心配だったのだと思います。
料理のレシピに置き換えてみる
この構造は、料理のレシピ本にも似ているなと思いました。
美味しい料理の作り方が書いてあって、その通りに作ったら美味しくできる。これはいいことです。レシピを見返して作り方を確認するのも当たり前にあっていい。それで食卓が豊かになるのは間違いありません。
でも、レシピに頼りっぱなしだと、いつまでも「その料理」しか作れない。冷蔵庫の中にある食材を見て、「さて、今日は何を作ろう」となったときに、応用が利かない。
一方で、レシピを使いながらも「なぜこの順番で調味料を入れるのか」「この野菜の下ごしらえにはどんな意味があるのか」と問いを持ちながら料理をしていると、自然に料理はうまくなっていきます。やがて、レシピがなくても冷蔵庫の中身からそれなりに美味しいものが作れるようになる。
この違いは大きい。
プロンプト本も同じで、「このプロンプトを使え」で終わる本と、「なぜこの聞き方だとAIはうまく答えられるのか」「この構造を別の場面にどう応用できるか」まで踏み込んでいる本では、読んだ人に育つ力がまるで違います。
だから、もしプロンプト集のような本を出すのであれば、「はじめに」か「おわりに」のどこかで、「このプロンプトをそのまま使うだけでなく、なぜこれが効くのかを考えてみてください」「時にはこのプロンプト自体を疑ってみてください」と一言添えてあるだけで、その本の意味はまったく変わるんじゃないかと思います。
「内省する力」の格差
ここまで考えてみて、結局自分の根っこにある問題意識に戻ってきました。
私は「内省する力の格差」が社会全体の課題だと思っています。自分の思考や行動を一歩引いて眺める力。それがあるかないかで、仕事の判断の質も、人間関係のあり方も、人生の選択も、大きく変わってくる。そして一人ひとりの内省する力が高まっていけば、思いやりや愛の総量が社会全体で増えていく。そう信じています。
だからこそ、「考えなくていい」というメッセージを暗に発してしまうものが世の中に増えていくことに対して、どうしても違和感を覚えてしまうのだと思います。
ただ、ここで大事なのは、内省する力を無理に引き上げることはできないということです。これは成人発達理論を学ぶ中で痛感していることでもあり、自分自身の実感としても持っています。人はそれぞれ、必要なタイミングで成長していくしかない。外から強制的に発達段階を押し上げることはできないんです。
じゃあ何ができるのか。
ロバート・キーガンの理論に触れて思うのは、「環境を置いておく」ことはできるということです。考えるきっかけになるような問いや場を、そっと用意しておく。そこから先はその人次第。でも、その環境があるかないかで、少しずつ変わっていくものがあるはずです。
レシピの「なぜ」を教えてくれる料理本
最後に、今回の思考のきっかけになった「料理のアナロジー」つながりで、自分の考え方にフィットする料理本を調べてみました。レシピではなく、料理の原理を教えてくれる本たちです。
『料理の四面体』 玉村豊男(中公文庫)
火・水・空気・油という四つの要素で、世界中のすべての料理を構造的に説明してしまうという、かなり大胆な一冊です。個別のレシピを教えるのではなく、料理を分類するための「軸」を与えてくれる。レヴィ=ストロースの構造主義から着想を得ているというのも面白い。まさに「冷蔵庫の中身から自分で組み立てる力」を育ててくれる本だと思います。
『SALT FAT ACID HEAT』 サミン・ノスラット
塩・油・酸・熱の4つの基本原理から料理を科学的に解説している本です。たとえば肉に塩を振る理由を、根拠とともに説明している。原理を理解すればレシピなしでも好きな味が出せるようになるという思想で貫かれていて、世界で100万部を超えるベストセラーになっています。
『料理のアイデアと考え方』シリーズ 柴田日本料理研鑽会(柴田書店)
9人の日本料理人が、素材に対してどんなアプローチをするかを座談会形式で議論するシリーズです。1巻は12の野菜、2巻は12の魚介をテーマにしています。レシピも載っていますが、主眼は個々の料理人の「思考プロセス」を見せること。食材のどんな特徴に着目し、何を表現しようとし、どう調理に落とし込むか。料理している姿そのものを見せてくれます。農学博士による科学的な解説も添えられていて、「おいしさ」を感覚だけでなく構造的に理解できるのも面白いところです。
どの本にも共通しているのは、「答え」ではなく「考え方」を伝えようとしているところ。レシピ通りに作るのではなく、なぜその料理がそうなっているのかを理解することで、自分の料理ができるようになる。
これは料理に限った話ではないと思っています。
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