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    「診断」という名前に抗う——言葉の選択と設計思想の開示

    「診断」という名前に抗う——言葉の選択と設計思想の開示

    タカシ ユウト/ TIELEC代表
    11 分で読める

    まとまりのない文章になる可能性がありますが、ツールを作り終えて、最後に残った「名前をどうするか」という問題について、考えたことを残しておきたいと思います。

    「診断」という言葉の暴力性

    メタ認知や内省傾向を可視化するツールを作り終えて、最後に残ったのは名前をどうするかという問題でした。

    「内省力診断」。

    最初に思いついたこの名前は、すぐに違和感を覚えました。

    「力」という言葉。これは能力を測る響きがある。高い・低いという序列を連想させる。そして「診断」という言葉も、合否や良し悪しを判定するニュアンスを帯びてしまう。

    ここまで丁寧に「評価しない」「引き上げない」「段階を扱わない」という設計を積み上げてきたのに、名前がそれを裏切ってしまうのではないか。そんな葛藤がありました。

    「診断」という言葉には、どうしても「点数」「正解」「判定」を期待させる力があります。どれだけ説明文で「これは評価ではありません」と書いても、名前が先に印象を作ってしまう。

    わかりやすさと思想のバランス

    かといって、あまりに抽象的な名前にしてしまうと、何をするツールなのか伝わらない。

    「ORIMD Mirror」「Reflect Map」といった候補も考えました。これらは評価の匂いがなく、思想とも一致している。でも、初めて見る人には何のツールかわかりにくい。

    わかりやすさを取りすぎると危険。

    抽象に寄せすぎると伝わらない。

    このジレンマの中で、何度も名前を考え直しました。

    「メタ認知傾向診断」はどうか。

    「能力」ではなく「傾向」という言葉なら、高低・優劣の匂いが弱まる。「診断」は入っているけれど、性格診断や傾向診断として一般に受け入れられている語感がある。

    でも、これだとORIMDというフレームワークの思想が見えない。独自の考え方や文脈が伝わらないかもしれない。

    名前に思想を込める

    最終的に辿り着いたのは「ORIMD|メタ認知・内省傾向診断」という名前でした。

    左側の「ORIMD」は独自フレームワークの錨です。これがあることで、一般的な心理診断とは違う、独自の思想があることを示せる。

    右側の「メタ認知・内省傾向診断」は、初見の人でも何を扱うツールかがわかる入口です。そして「傾向」という言葉が、能力評価を避ける決定打になっている。

    区切りの「|」も重要でした。

    左は思想・構造。右はユーザー向けの意味。

    この分離が、わかりやすさと思想の両立を可能にしてくれた気がします。

    ただ、名前だけでは足りません。

    必ずサブコピーをつけることにしました。

    今回の出来事を、どんな視点で捉えていたかを可視化する

    そして、診断開始前には必ずこう伝えます。

    この診断は、メタ認知や内省の「高さ」や「能力」を評価するものではありません。
    今回の回答や内省から、どのような視点が使われていたかを傾向として可視化します。

    名前で煽らない。説明で誤解を潰す。

    これが最適解だと思いました。

    設計思想を開示する必要性

    もう一つ、悩んだのが「設計思想の開示ページ」を作るかどうかでした。

    普通、診断ツールに設計思想のページなんてありません。でも、このツールには必要だと感じました。

    なぜなら、このツールは直感と逆行する設計をしているからです。

    点数が出る。グラフが出る。「診断」という言葉を使っている。

    にもかかわらず、能力評価をしない。序列化しない。発達段階を扱わない。

    説明しないと、必ず誤読されます。

    そしてこの開示は、言い訳ではなく「安全装置」だと考えました。

    設計思想を理解した人ほど、結果を正しく解釈できる。

    誤った自己否定や自己肥大を防げる。

    ページの構成は、こう決めました。

    まず最初に「これは何をしないツールか」を明示する。

    • 人の成熟度や能力を評価しない
    • 他人との比較や順位付けをしない
    • 「高い/低い」で優劣をつけない
    • 成人発達段階を扱わない

    最初に地雷を全部除去しておく。

    次に「では、何をするのか」を説明する。

    この診断は、今回の出来事や回答の中で、どんな視点が使われていたかを可視化します。

    ORIMDの5つの視点を1行ずつ説明し、「なぜ点数やグラフがあるのか」も丁寧に伝える。

    数字や図は、比較や評価のためではなく、気づきを助けるための補助です。

    そして、このツールが一番大切にしている「ズレ」についても触れます。

    自己認識と行動のズレは失敗ではない。
    ズレは内省の入口です。

    最後は、押し付けない締めくくり。

    正解はありません。
    今回の結果を、「そう見えていたんだな」と眺めるだけでも十分です。

    何度もやる必要はありません。
    成長を目指さなくていい。
    やめてもいい。

    このページを読んだ人が、安心して結果を眺められるように。自分を評価されたと感じないように。「そういう設計なんだ」と腑に落ちるように。

    「満点」がない設計

    テストで全部5をつけたらどうなるか。

    この質問を自分に投げかけたとき、はっとしました。

    数値的には全軸1.0(外周)になる。レーダーチャートはほぼ正五角形。

    でも、これを「満点」「完璧」と読ませてはいけない。

    同時に、全部5をつけた人は、逆転項目も全部5になる。

    つまり「自分は大体正しいと思っている」「混ざっても問題ないと思っている」という回答も最大になっている。

    これは過信傾向を示しています。

    結果画面では、こう伝えます。

    この視点について、自己認識が実際の行動より強めに出ている可能性があります。

    それが「気づき」なのだと思います。

    全軸MAXでも「成長が止まる」体験にならない。

    むしろ、自分の認識の歪みに気づける。

    これが、このツールの設計思想でした。

    技術的な実装詳細については、以下の記事で詳しく解説しています:

    診断ツールに「評価」を持ち込まない(前編: ベーシック診断)——質問票設計の構造的矛盾

    診断ツールに「評価」を持ち込まない(前編: ベーシック診断)——質問票設計の構造的矛盾

    Tech
    AI開発

    アドバンス診断は「通過ログ」

    ベーシック診断が傾向の「地図」だとすれば、アドバンス診断は出来事の「通過ログ」です。

    実際にORIMDのフレームワークで内省ワークをしてもらい、そのテキストを自動分析する仕組みにしました。

    でも、これも「上手に書けるか」を見るものではありません。

    内省の癖や思考の使い方を観測するだけです。

    結果画面では、評価ではなく観測を伝えます。

    これは今回の出来事をどのように通過したかの記録です。
    あなたの能力や傾向を評価するものではありません。

    ORIMDの5つのステップを、プロセスの流れとして見せる。

    レーダーチャートではなく、横並びや縦フローで。

    各ステップには「しっかり使われた」「控えめだった」という非序列・非点数の表現をつける。

    そして、観測コメントは中立的に。

    出来事は時系列で整理されており、事実として切り出そうとする意図が見られます。

    点数は出さない。「できている/できていない」は使わない。

    混在していても、それをマイナスにしない。

    言葉の細部への配慮

    作り終えてから、さらに細かい調整が必要だと気づきました。

    「今回この視点は使われていませんでした」

    この表現が、「できていない」「足りない」と読まれる可能性があったのです。

    分析の仕組みとしては「観測されなかった」という中立的な事実でも、人間は「不足」と読みやすい。

    だから、こう変えました。

    今回の内省では、この視点は前面には出ていませんでした。
    出来事の性質上、他の視点が優先された可能性があります。

    「未使用」ではなく「優先されなかった」。

    能力評価の匂いが完全に消える表現です。

    また、R(感情認知)とD(意思決定)が相対的に強調されて見える問題もありました。

    これらの視点は、テキスト中に表れやすい。だから分析結果のコメントが肯定的になりやすく、O/I/Mが「弱い」ように見えてしまう。

    対策として、すべての観測コメントに「文脈依存」の語彙を必ず含めるようにしました。

    今回の出来事では、感情への注意が自然に向きやすい文脈でした。

    R/Dを「できている」と読ませない。

    O/I/Mを「できていない」と読ませない。

    どの軸も、良さではなく「役割・重心」として示す。

    LLMを使った観測の技術的実装については、以下の記事で詳しく解説しています:

    診断ツールに「評価」を持ち込まない(後編: アドバンス診断)——LLMを観測者にする技術

    診断ツールに「評価」を持ち込まない(後編: アドバンス診断)——LLMを観測者にする技術

    Tech
    AI開発

    このツールを信頼できる人だけが使う

    「ORIMD|メタ認知・内省傾向診断」という名前を選んだ時点で、もう引き返せない道に入ったのかもしれません。

    倫理的に雑な方向にも、発達段階マウンティングにも、成熟度ビジネスにも、もう行けない。

    でも、それはデメリットではないと思いました。

    このプロダクトを信頼できる人だけが、長く使える設計になったということだから。

    ここまで丁寧に葛藤し、言葉を選び、設計思想を開示したのは、「測る」ためではなく「映す」ためでした。

    内省を「測る」のではなく「映す」。

    この思想が、名前にも、説明にも、結果画面にも、言葉の細部にも、一貫して流れている。

    リリースの準備ができたと、確信しました。


    実際のアセスメントツールはこちら:

    https://metacog-assess.tool.tielec.blog/

    metacog-assess.tool.tielec.blog

    名前は、思想を体現するものだと改めて感じました。

    どれだけ設計を丁寧に積み上げても、名前がそれを裏切ってしまったら意味がない。

    だからこそ、ここまで悩む価値があったのだと思います。

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