「ものづくり」をしたいのに、トラブルシューティングばかり

ある日、SREチームのメンバーと話していて、こんな声を聞いた。

「SREの仕事って、有事の際に問題を沈下することが主な仕事になりがちで、ものづくりをしたいエンジニアにとってはモチベーションが上がらないこともある」

確かに。既存のオペレーションを自動化したり、トラブルシューティングしたりするけど、新しい何かが生まれているわけじゃない。普段サービスが安定して動いている状態だと感謝されないし、でも問題があったら呼び出される。

これ、すごく本質的な問題だと思った。

警察・消防との類似性

ふと思ったんだけど、SREの仕事って、日常に近い仕事で言ったら 警察・消防・自衛隊 と似た構図なんじゃないか。

彼らも税金を使って社会を守る活動をしているわけだけど、問題が起きないときは訓練をしている。でも「何もしてない」と見られがちで、予算を削られたりする。

「予防の価値」は見えにくい。

警察・消防も同じで、「犯罪率が低い」「火事が起きない」って、実は彼らの活動の成果なのに、「何もしてない」と見えてしまう。

SREは「守る人」だけじゃない

でも、警察・消防も実は「ものづくり」をしているんだよね。

SREも同じで:

つまり、SREって本当は「守り」と「攻め」の両面がある仕事なんだと思う。

ビジネスの中で軽視されがちな構造

ただ、ビジネスの中にいると、SREのポジションって結構軽視されがちというか、事業価値を産んでいないと見られてしまう ことがある。

これも警察とかと同じで、「自分たちの税金で飯食いやがって」と感じる人達がいるのと同じ構図だと思う。

特にスタートアップや成長期の企業だと:

そして、怖いのが 負のスパイラル だ。

予算削減
   ↓
人員不足・ツール不足
   ↓
インシデント増加
   ↓
「SRE無能だ」
   ↓
さらに予算削減

予算削減 → 人員不足 → インシデント増加 → 「SRE無能だ」 → さらに予算削減。

これ、警察でも消防でも起きてる。「犯罪増えてるのに何やってんだ」と言われて予算削られて、パトロール減って、犯罪が増える…みたいな。

鶏卵問題:問題が起きないと予算がつかない

さらに厄介なのが、鶏卵問題 だ。

パターン1: 問題が起きないと予算がつかない

パターン2: 予防投資が評価されない

これって消防の「耐震補強予算」と全く同じ構図だよね。地震が起きる前は「無駄」、起きた後は「なぜやらなかった」。

Platform Engineeringの台頭

ここ2-3年、Platform Engineering という考え方が注目されている。

これは、開発者が自分でインフラを操作できる「セルフサービス基盤」を作る活動 のことだ。

具体的には:

背景には、DevOpsの理想と現実のギャップ がある。

DevOpsの理想(2010年代)

現実

「開発者全員がインフラエキスパートになるのは無理だった」 という反省がある。

SREの役割が再定義されている

Platform Engineeringの登場で、SREの役割が変わってきている。

SRE Platform Engineering
主な目的 サービスの信頼性を守る 開発者の生産性を上げる
誰のため? エンドユーザー(顧客) 内部の開発者
活動内容 インシデント対応、SLO管理、
キャパシティプランニング
セルフサービス基盤構築、
ツール標準化、DX改善

警察の比喩で言うと:

従来のSRE = パトカーで街を巡回、犯罪が起きたら駆けつける
Platform Engineering = 街灯を増やす、防犯カメラを設置する、住民が自分で防犯できる仕組みを作る

つまり、SREは「守る人」から「エンパワーする人」へ という変化が起きている。

それでも残る予算問題

でも、ここで気づいた。

アプローチを変えても「どこまで投資すれば十分か」問題からは逃れられない。

Platform Engineeringでも同じ壁にぶつかる。

防犯カメラの例で言うと:

Platform Engineeringでも:

しかも、SREの障害対応は 「起きてしまった損失」が可視化される けど、Platform Engineeringは 「起きなかった機会損失」 を証明しないといけない。

「生産性向上」は「障害による損失」より説明しづらい。

CTOやCEOが非エンジニアだと、さらに厳しい

CTOやCEOにエンジニア的なバックグラウンドがある場合は良い。話が通じる。

でもそうじゃないパターンはかなり厳しいと思うんだよね。

しかも全部を説明しようにも、その時間を割いてくれないと思うし、説明できたとしても理解が追いつかないかもしれない。

だからこそ、エンジニアのバックグラウンドがない人でも理解できるレベルでSREとかPlatform Engineeringの必要性を言語化しておきたい。

「まずはこれ読んでください」と言って、素養が出来上がるレベルのもの。

経営層向けガイドを書いた理由

そう思って、経営層向けのガイドを書いた。(記事の後半に全文掲載)

ポイントは:

正直、書きながら「これで伝わるのか?」と何度も迷った。

でも、少なくとも 「なぜSREやPlatform Engineeringに予算が必要なのか」という問いに対して、一つの答えを提示できた と思う。

振り返り: デジタルインフラは「コスト」ではなく「投資」

この対話を通じて、改めて思ったことがある。

SREやPlatform Engineeringへの投資は、火災保険と同じだ。

企業は火災保険に年間数百万円払う。「火事が起きないから無駄」とは言わない。

同じように:

でも、多くの企業は 大規模障害を経験してから SREに投資する。

警察・消防は、大事件・大火災が起きる前から予算がある。それは 「社会インフラ」として認識されてるから

SREも「デジタル社会インフラ」として認識されるべき。

そのためには:

正直、完璧な解はないと思う。

結局、「どこまで投資すれば十分か」に絶対解はなく、組織の価値観や優先順位の問題になる。

でも、少なくとも「考えるための材料」は提供できたんじゃないかと思う。


SREやPlatform Engineeringについて体系的に学びたい方には、以下の書籍がおすすめです。

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次の問い

この記事を読んで、あなたはどう思いますか?

もしこの記事が、あなたの組織での対話のきっかけになったら嬉しい。


付録: SRE・Platform Engineering 入門ガイド(経営層向け)

記事内で言及した経営層向けガイドは、マークダウンファイルとしてダウンロードできます。非エンジニアの方でも読めるよう、できるだけ平易な言葉で書きました。社内共有や経営会議の資料としてご活用ください。